Evangelist 読んで知る、証券システムの今と未来。

TOP連載特集「The Evangelist」第一回 / 2019.01.07 掲載
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証券システムの今と未来を共に歩み、創り、超えていくために。岡三情報システムが岡三証券グループと投資家の皆さまへお届けするシリーズコンテンツ「Evangelist」。

第一回となる今回は、FinTechにまつわる様々なキーワードやトピック、そして、金融インフラを大きく変革する可能性を秘めたブロックチェーンについてご紹介します。

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1.キーワードとトピックで知る
FinTech活用の動向

証券業に限らず、様々な業界で注目されるFinTech。金融を意味する「ファイナンス(Finance)」と、技術を意味する「テクノロジー(Technology)」の造語から生まれた金融サービスの潮流は、コグニティブシステムやAIの活用など、国内外において様々な発展の動きを見せ始めています。

人間の意思決定をサポートするコグニティブシステム(cognitive system)

コグニティブシステムとは、コンピュータが問題を認知・認識し、その問題に対する正解を推測して提示するシステムを指します。代表的な例が、IBMのWatsonです。

レコメンデーションシステムなど、人間の意思決定を適切にサポートするためのシステムであり、あくまでも人が主体である点が、次に紹介するAIとの大きな違いです。コンピュータが英語や日本語といった言語をそのまま理解し、利用者の趣味や思考の傾向やパターンを分析します。これを繰り返すことにより学習を重ね、利用者にとって、より最適な解を導き出す役割を期待されています。

人間に代わり意思決定するAI(Artificial Intelligence)

AI(人工知能)とは、人間の判断や意思決定の一部を再現するシステムを指します。新たな入力に順応し、経験から学習し、コンピュータが自律的に判断する役割を担います。コグニティブシステムがあくまでも人間の意思決定のサポートであることに対して、こちらは人間の代わりにコンピュータが意思決定の主体となるシステムと言えます。自動運転システムなどがわかりやすい例です。

特に、電子メール、テキストメッセージ、画像、音声ファイルなどの非構造化データ(分類や絞り込みがなされていないデータ)が豊富な金融ビジネス分野は、データ分析から得られる情報活用のためのコグニティブシステムやAI技術の需要が高いと言われています。

劇的に進む株取引の自動化

米国の投資銀行 Goldman Sachs社では、機械学習機能を持つ複雑な取引アルゴリズムを活用した株取引の自動化を推進しており、「Goldman Sachs社のニューヨーク本社では、2000年には600人のトレーダーが大口顧客の注文を受けて株式の売買を行っていたが、2017年ではトレーダーはわずか2人となり、日々の取引業務は200人のコンピュータエンジニアが運用する自動取引プログラムに置き換えられている」(2017年1月、ハーバード大学におけるシンポジウムより)ということです。

大幅に向上する不正行為の判定精度

米国のAIベンチャー Digital Reasoning社では、トレーダーが1日にやり取りする数百万件の電子メールやテキストメッセージをスキャンして行動パターンを解析するコグニティブコンピューティングプラットフォームにより、不正行為の行動パターンが特定されると、投資銀行等のコンプライアンス担当者に通知する仕組みを提供しています。これは従来のコンプライアンスツールと比較して、不正行為に関する誤判定率を95~99%低減できると言われています。

今後、不正取引を摘発するような、規制コンプライアンスにAI監視システムを活用する「RegTech(レグテック)」のソリューションも金融ビジネスにおいて需要が高まるものと思われます。

9万件以上のデータから瞬時に投資分析

米国のAIベンチャーKensho Technologies社はビッグデータと機械学習による株式市場分析サービス「Kensho」を提供しています。同社は、クラウドベースのデータ分析ソフトウェア「Warren」について「強力な統計コンピューティングとユーザーに使いやすいインターフェース、非構造化データ工学のブレークスルー技術を活用した投資銀行の専門職向け次世代分析プラットフォーム」とし、「ウォールストリートの投資分析において最大の課題となっている、従来、人の手に依存していた知識労働の迅速かつ大規模な自動化を実現する」と説明しています。

このWarrenは、例えば「Apple社が新iPad端末をリリースした際に、株価が最も上昇する同社のサプライヤ企業はどこか」といった難解な質問に対しても、経済報告書や金融政策の変化、自然災害、政治情勢など世の中の動きに関連した9万件以上のデータを瞬時に分析し、確かな情報に基づく回答を作成できると言われています。

金融サービス向けの主なAIソリューション

米国でスタートアップやベンチャーキャピタルの最新動向のリポートやコンサルティングを手掛けるCB Insights社では、AIベンチャー企業が提供する金融サービス機関向けソリューションを以下の9つの主要カテゴリに分類しています。これらのカテゴリ分けからもわかるように、証券業を含む金融サービスの幅広い領域においてAIの活躍が注目されています。

【 主要カテゴリ 】

A.信用評価/直接融資
堅牢な与信スコアリング及び融資アプリケーションにAIを使用します。

B.個人口座/個人資金管理
AIチャットボットとモバイルアプリ・アシスタント・アプリケーションを使用して個人の資金の計画や管理状況を監視します。

C.資産管理
AIアルゴリズム取引及び投資戦略又はツールを採用します。

D.保険
AIを使用して見積もりを保証します。

E.市場調査/感情分析
AIを使用して、市場センチメントを効率的に研究、測定します。

F.債権回収
パーソナライズされ、自動化されたコミュニケーションを通じて債権回収を改善するためにAIを使用します。

G.企業ファイナンス/経費報告書
経費報告を含む基本的な企業会計を改善するためにAIを使用します。

H.汎用/予測分析
一般的な意味だけでなく、広く適用される予測分析にAIを使用します。

I.規制、コンプライアンス、不正の検出
AIを使用して不正取引や異常な金融行動を検出したり、一般的なコンプライアンスの問題やワークフローを改善したりします。

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2.金融ビジネスにおける
ブロックチェーン技術活用の動向

ブロックチェーン技術は、取引の安全性・安定性の向上やコスト削減の効果が期待され、金融取引インフラを大きく変革する可能性があると言われています。ここではブロックチェーンの基礎知識と、米国・オーストラリア・日本の株式市場インフラにおけるブロックチェーン活用の動向をご紹介します。

ブロックチェーンとは

ブロックチェーンとは、いわば取引データを記録している台帳やデータの集合体です。ブロックとは、あるまとまった期間の取引の塊(ブロック)のことで、取引台帳の各ページとイメージすればわかりやすいでしょう。これらのブロックとチェーンのようにつながっているという構造を持つことがブロックチェーンと呼ばれる所以です。

大きな特徴としては、管理者が存在しない分散型の仕組みをもっており、暗号技術がその土台となっています。 従来型のシステムのように特定の管理者によってではなく、ブロックチェーンでは、ネットワークに参加するすべての関与者が同じデータを共有し、取引は、すべての参加者によって検証・認証されて初めて確定します。この仕組みにより整備される透明性の高い環境によって、ブロックチェーンは偽装や改ざんに対する優れた安全性を実現することができます。

分散型であるがゆえに検証・認証に時間がかかり、リアルタイム性に難があるといった技術的な課題もありますが、すでに試験適用や実証実験は始まっており、近い将来の本格導入が待たれます。

株式市場インフラに関する動向

【 米国 】

・多通貨同時決済を行うCLS(Continuous Linked Settlement)銀行は、外国為替取引の照合及びネッティングにおいて、ブロックチェーンの試験適用を推進しています。

・フィナンシャルサービスプロバイダーのDTCC社(The Depository Trust & Clearing Corporation)は、CDSポストトレード処理の領域でブロックチェーンの活用の試験適用を行っています。

【 オーストラリア 】

オーストラリア証券取引所(ASX)は、現物株式のクリアリング(清算)、セトルメント(決済)及び株主登録といったポストトレード・プロセスを担うASXの既存システムCHESS(Clearing House Electronic Subregister System)のリプレースにあたり、ブロックチェーンを活用したレコードキーピング・照合・トランザクション・データ品質の向上を図り、市場効率化を目指すことを2017年12月にアナウンスしています。

【 日本 】

日本取引所グループ(JPX)は、業界連携型のブロックチェーンの実証実験を行っています。約定照合、KYC(顧客確認)やAML(マネロン対策)などの業務について業界連携型のブロックチェーンの実証実験を行っています。

こうした業務にブロックチェーンを適用することにより、各証券会社等が手持ちの帳簿と清算機関の帳簿を絶えず突合しアップデートするなど、業界共通の業務の効率化、合理化、取引コストの低減が期待されます。また、取引関連事務の自動化により、取引の迅速化や円滑化が期待されます。

さらに、投資家、証券会社及び口座管理機関などの関係者全ての間で取引約定内容を共有することにより、サイバー攻撃や障害への耐性強化やフェイルの極小化といったインフラの頑健性強化も期待されます。

他方、日本銀行では欧州中央銀行との共同調査プロジェクト「Project Stella」により金融市場インフラへのブロックチェーンの応用可能性を調査しています。この調査において、資金と証券の受渡を紐付けるDvP(delivery versus payment)について、ブロックチェーンを応用した環境下においても実現できることが確認されています。

【 参考資料 】

・「フィンテック時代の証券業」(2018年6月、日本証券業協会)

・「CHESS Replacement: New Scope and Implementation Plan, Consultation Paper」(2018年4月、ASX)

・「金融市場における分散型台帳技術の活用に係る検討の動向,JPXワーキングペーパー」(2017年9月14日、日本取引所グループ)

・「The future of financial infrastructure, An ambitious look at how blockchain can reshape financial services」(2016年8月、World Economic Forum)

・「米国のフィンテックにおける人工知能の活用 (フィンテックAI)の現状と課題」(2017年4月、JETRO)

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